空調による省エネ・脱炭素の最新潮流
建物内で使うエネルギーのうち、空調は特に大きな割合を占めています。国土交通省の調査(※)では、事務所等では約63%、学校等では約52%、ホテル等では約65%、百貨店等では 約69%、飲食店等では約29%が空調によるエネルギー消費とされています。そのため、省エネ性の高い空調の導入は脱炭素経営における重要なポイントとなります。
※参照:中規模非住宅建築物の省エネ基準の見直しについて
https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/sho_energy/kenchikubutsu_energy/pdf/019_04_00.pdf
2025年4月から始まった建築物省エネ法の改正による新築の建物への省エネ基準適合の義務付け、2050年までに温室効果ガスの排出量と吸収量を差し引きでゼロを目指すカーボンニュートラル宣言、またそれらの推進のために設けられた国や自治体による補助金制度により、高効率な空調への更新が後押しされています。
空調で省エネ・脱炭素に取り組むことは、光熱費の削減だけでなく、従業員が働く上での快適性の向上が期待でき、業務効率や従業員満足度のさらなる向上にもつながります。また、環境に配慮した取り組みは、企業の姿勢として対外的な評価につながり、資産価値の向上や投資先としての魅力の強化にも寄与します。
ヒートポンプが生む高効率エネルギー循環の仕組み
ヒートポンプとは、空気や水の中に含まれる熱を集めて、必要な場所に移動させる仕組みのことです。空気や水の中の熱を利用することで、使用する電気エネルギーよりも多くの熱エネルギーを得られる点に大きな特徴があり、空調や給湯器、冷蔵庫など、さまざまな機器に活用されています。ヒートポンプを活用することで、従来のガスや灯油などを用いるボイラーなどと比べて消費エネルギーを大きく削減できるため、省エネ化に大きく貢献します。
空調の中間期と呼ばれる4~5月の春、10~11月の秋は、同じ建物内でも冷房運転をする箇所と暖房運転をする箇所が混在することがあります。排熱回収型のヒートポンプであれば、空調ユニット間で排熱を回収して利用できるため、中間期はさらに高効率化が可能です。
また、ヒートポンプの大きな特徴として、運転時に燃焼を伴わないため、直接的なCO₂排出はありません。このことは脱炭素化に直結します。ヒートポンプは空調だけでなく給湯設備や冷蔵施設にも用いられている技術であるため、建物や工場の省エネ化の核になる技術として注目されています。
ヒートポンプと同様に、熱を生み出す設備として工場などで多く用いられているボイラーは、高温の蒸気を効率よく得られる反面、ガスや油などの燃料を燃やすことで熱を生むため、CO₂を排出します。また、燃焼効率の点で見ると、燃料を燃やしてつくる熱量よりも、排気や配管から失われる熱の方が大きくなる傾向があり、一次エネルギー消費量への換算では100%を切り、熱ロスは約4割もあるともいわれています。つまり、脱炭素化への適正だけでなく熱を生み出す効率においてヒートポンプの方がボイラーよりも優れているということになります。
設計段階で押さえておきたい省エネ空調の要点
空調の更新や新規導入による省エネ化を検討する際は、設計段階から空調負荷を正しく算定し、必要に応じた出力を備えた機器を設置することが重要です。部屋の用途や広さ、照明や日射、建物外壁や窓・天井などの断熱性能、換気設備の能力などに応じて空調負荷を計算し、必要となる空調の能力を求める作業を行います。必要以上の能力を持つ空調を設置すると、初期費用が膨らむだけでなく、過剰な運転や制御の難しさから快適性が損なわれたり、無駄な電力消費が生まれることで、ランニングコストが高くなる可能性があります。ヒートポンプを効率よく使用するためには、設計段階で、建物内の空間や設備においてどこで・どれくらいの熱が必要になるか、そしてそれが一日にどれくらい使われるかを正確に把握することが重要です。
次にポイントとなるのが、空調の配管ルートの最適化です。冷房・暖房の効率を高めるためには、室外機から排熱・吸熱を行う冷媒配管の長さや複雑さを抑えることが重要です。冷媒配管が長くなったり複雑化したりすると、冷暖房効率が低下する原因となります。
また、換気に関わるダクトのルート設計も重要です。ダクトが長くなったり折れ曲がったりすると、圧力損失が大きくなり、換気設備の大型化が必要になるなど、換気設計に影響を及ぼします。
これらの要素は、いずれも省エネ化の実現における障壁となるため、冷媒配管とダクトそれぞれに適した設計を行うことが重要です。
さらには、既存設備としてボイラーを使用している場合、ボイラーをすべてヒートポンプと入れ換えるのか、ボイラーを活用しつつ部分的にヒートポンプも活用するハイブリッドな運用を行うのかについても検討する必要があります。
ヒートポンプは熱をつくる効率と脱炭素性においてボイラーよりも優れているものの、大容量の熱を素早く生み出す能力においてはボイラーの方が秀でています。そのため、日常的なベースの熱はヒートポンプで、急にたくさんの熱が必要なときはボイラーで補うというハイブリッドな運用の方が望ましい場合もあります。
これらの要点を踏まえ、設計段階から取り入れることで、空調設備の導入効果を最大化し、将来的な運用コストの抑制も期待できます。
施工・運用フェーズの省エネ空調チェック事項
設計通りの空調効果を実現するためには、施工段階での品質管理が重要になります。空調の施工時は空調が正常に作動するよう、配管内の異物の除去に加え、ポンプによって配管内を真空にする真空引きを行い、水分や空気を除去し冷媒が円滑に循環する仕組みを整えます。また、断熱材の継ぎ目の密閉も欠かさずに行いましょう。断熱材の継ぎ目にすき間があると、そこから熱損失が生じるため、空調負荷が増して空調効率に悪影響を及ぼします。
空調の設置後の運用段階では、季節に合わせた風量や設定温度にすることで過剰な電力消費を抑えることが重要です。センサーで室内の状態を監視し、それに合わせて空調の運転を自動制御するシステムの活用や、部分負荷運転を活かした空調設定にすることで空調効率の最大化が図れます。
また、空調効率の維持のためには定期的なメンテナンスも欠かせません。フィルター清掃や熱交換器の高圧洗浄を行い、空調内部を清潔に保てば、空調効率の維持だけでなく嫌なニオイの予防も可能です。さらには、空調内部で発生する結露水を受け止めるドレンパンやそれを排出する管となるドレン配管の洗浄、冷媒漏れのチェック、必要に応じた空調消耗品の交換などを行うと効果的です。
空調のメンテナンスは、高所での作業を伴うことや専門知識が必要になることもあるので、専門業者に依頼するとよいでしょう。
空調で省エネ化を実現するには、施工品質と運用改善の両方に目を配ることが重要になります。
施工とその後の運用の段階のそれぞれにおいて空調設計者が主体的に関与し、省エネ性能だけでなく従業員が働く上での快適性が担保できているか、ランニングコストは想定通りかといった要素をバランス良く満たし続けることが求められます。
日本キヤリアの製品を紹介
日本キヤリアは省エネと脱炭素に貢献する製品を豊富に取り揃えています。
ビル用マルチ空調システム「スーパーマルチu」シリーズは、VRF(Variable Refrigerant Flow)方式を採用しており、冷媒の流量を各室内機に対して柔軟に制御することで、高効率な空調運転を実現します。
複数台接続された室内機を個別に運転できるため、室内機ごとの細かな調整や、未使用エリアの室内機をOFFにすることで、無駄なエネルギー消費を抑え、省エネに貢献します。
また、遠隔監視サービスにより、運用中の正確なデータを活用して、空調の効率改善やメンテナンスの最適化にもつなげることができます。日本キヤリアの空調製品は、更新・新規設置を問わず、脱炭素プロジェクトにおける強力な選択肢となります。
日本キヤリアでは、機器導入にあたっては空調の設計段階から導入後の運用に至るまで、トータルサポートを実施しております。ぜひお気軽にお問い合わせください。