ZEBとは?定義・区分・メリットをわかりやすく解説
ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)とは、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロにすることを目指した建築物のことです。
建物内では電気やガスなどのエネルギーを使用するため、エネルギーの消費量そのものをゼロにすることはできません。
そこでZEBでは、断熱性を高め、省エネ性能の高い設備を導入して消費量を抑えつつ、太陽光発電などの再生可能エネルギーによってエネルギーを創り出す「創エネ」を組み合わせることで、年間の一次エネルギー消費量の収支をゼロに近づけるという考え方が採用されています。
ZEBは、一次エネルギー消費量の削減度合いに応じて以下の4つに分類されます。
- ZEB:省エネ(50%以上)+創エネで100%以上の削減
- Nearly ZEB:省エネ(50%以上)+創エネで75%以上の削減
- ZEB Ready:省エネで50%以上の削減
- ZEB Oriented(大規模建築物向け):用途ごとに規定された一次エネルギー消費量の削減
新築・既存かを問わず、建物のZEB化には大きなコストがかかります。しかしZEB化には地球環境に貢献できるというだけでなくさまざまなメリットが事業者やそこで働く人たちにあります。
事業者目線で考えると光熱費の削減による経費の削減、働く人目線では快適性の向上による業務効率や満足度の向上、また、環境へ配慮している姿勢を見せることは対外的なアピールとなり資産価値の向上、投資対象としての魅力の向上などにもつながります。
特に、ビルの建築や設計を担う企業にとっては、大きなビジネスチャンスともなります。
また、ZEB化は日本政府として推進していることでもあるので、国や自治体による補助金制度や税制優遇制度も整備されています。
さまざまなメリットや補助金・税制優遇制度があることからも、ZEB化を検討する価値は十分にあるといえるでしょう。
日本政府は2050年のカーボンニュートラル、2030年度の温室効果ガス46%排出削減(2013年度比)を目指しています。2030年度の温室効果ガス46%排出削減目標達成のために「エネルギー転換」「運輸」「家庭」「産業」「業務」の5つの部門に分けて達成目標が掲げられており、オフィスや店舗が該当する業務部門においてはエネルギー起源CO₂排出量を2013年度比で51%削減する、家庭部門の66%に次いで厳しい目標が設定されています。
これらの目標達成の一環として2025年4月からの建築物省エネ法の改正も実施され、すべての住宅・建築物を新築・増改築する際は「省エネ基準」への適合が義務化されました。
ZEB実現と空調設計の深い関係
国土交通省の調査によると工場等を除く多くの建物用途において、エネルギー消費量のうち、空調設備が占める割合が高いことが分かっています。例えば、事務所等では約63%、学校等では約52%、ホテル等では約65%、百貨店等では約69%など、用途によっては空調が半分以上を占めるケースもあります。
このような背景から、ZEB化を目指す上で空調設計の最適化は欠かせない要素となります。
空調機器は、単に出力の大きなものを選べばよいというものではありません。出力が過剰な空調機器は、導入コストの増加に加え、部屋の広さや用途に合った温度・湿度管理が難しくなり、快適性の低下が生じる可能性があります。
一方で、出力が不足している場合は、空調機器が常にフル稼働となり、消費電力の低減が図りにくくなります。
適切な空調機器を選定するためには、設置前に「負荷計算」を行うことが重要です。
負荷計算とは、室温を維持するために必要な熱量(熱負荷)を、部屋の用途や広さ、外皮性能(外壁・窓・屋根・床・天井の断熱性・気密性)、さらには換気設備の能力などを踏まえて算出する作業です。
この計算により、必要な空調能力を正確に把握することで、快適性と省エネ性の両立に近づけることができます。
こうした過剰・過小な能力の選定を避け、建物の条件に合った高効率な空調機器を導入することで、運用エネルギーの削減と初期コストの抑制が可能になります。
さらに、設計段階から発注者・設計者・施工者間で情報を共有し、建物全体のエネルギー戦略を可視化することも重要です。
その手段として、コンピュータ上で3D建物モデルを活用するBIM(Building Information Modeling)を導入すれば、効率的な省エネ検討が可能になります。
現代において空調設計は、単なる「設備設計」に留まらず、「戦略設計」ともいえる存在になっています。
ZEBを支える最新空調技術
ZEBの実現のためには高性能な空調関連設備が欠かせません。その代表格として、ここでは「低GWP冷媒チラー」「全熱交換器」の2つについて紹介します。
チラーは冷水を作り、空調機器に送ることで室内を冷却する装置で、ビルや工場などの大型空調設備に使用されます。
冷媒に使われるGWP(Global Warming Potential:地球温暖化係数)は、CO₂を基準に温室効果ガスの温暖化影響を数値化した指標です。
GWPの値が小さいほど、温暖化への影響が小さいことを示すものになります。チラーに搭載される冷媒によっては、大きくGWPを抑制することが可能です。
全熱交換器は、屋外の空気を取り込む「給気」と、屋内の空気を排出する「排気」を同時に行う機器です。
搭載された熱交換システムにより、夏は排気される冷えた空気の冷たさを給気側に移し、冬は暖かい空気の熱を移すことで、外気を取り込みながらも室温への影響を抑えることができます。
この仕組みにより、空調負荷を軽減し、省エネ性の向上に貢献します。
これらの空調関連機器を組み込むことでCOP(消費電力1kWあたりの冷暖房能力)やAPF(1年を通した空調の省エネ性能)を高めることができ、ZEB性能の維持にもつながります。また、IoTを活用することで運用中のデータ取得・分析が可能となり、継続的な空調設計の改善が期待されます。
ZEB対応空調設計のプロセス4ステップ|負荷計算から運用まで
ZEBは、高機能な設備を導入すれば達成できるという単純なものではなく、建物全体のエネルギー戦略を踏まえた緻密な設計とシミュレーションが必要です。ここではZEB化に向けた空調設計のプロセスを4つのステップに分けて紹介します。
1.企画段階でエネルギー目標値を設定
ZEB化を実現するためには、一次エネルギーをどの程度削減する必要があるのかを調査し、それをもとに目標値を設定する必要があります。既存の建物の場合は、「そもそもZEB化が可能か」という調査から始める必要があります。
2.基本設計で詳細な負荷計算・シミュレーションを行い、導入すべき機器を比較
空調の負荷計算を行うために、外皮性能(断熱・気密性)や熱源となる照明、日光などの要因を検討します。負荷計算で得られた情報をもとに、エネルギー目標値を達成するために必要な、省エネにつながる空調機器を検討・比較します。基本設計からZEB認証の手続きを受けるまでが約1年、補助金申請から施工、実績報告までにさらに1年というのが基本的なスケジュールとなります。
3.実施設計でダクト・配管・制御を最適化し法令届出を行う
実施設計では、空調機器に接続されるダクトや冷媒配管のルート設計を最適化し、冷媒漏えい対策や建築物省エネ法などの法令対応を行います。この段階で、施工に必要な詳細設計が整い、ZEB認証に必要な評価資料が概ね揃うため、申請手続きを進めることが可能になります。
その際の審査基準となるのがBEI(Building Energy Index)です。BEIとは、建築物省エネ法で使用される指標で、一次エネルギー消費量を、国が定めた基準一次エネルギー消費量で割った値です。
この数値が小さいほど省エネ性能が高く、ZEBの区分はBEIの値に応じて以下のように判定されます。
- BEI ≦ 0.5 → ZEB Ready(省エネのみで50%以上削減)
- BEI ≦ 0.25 → Nearly ZEB(省エネ+創エネで75%以上削減)
- BEI ≦ 0.0 → ZEB(省エネ+創エネで100%以上削減)
4.施工・運用段階で実測検証を実施
省エネは設計段階だけ考慮すればよいものではなく、竣工した後も省エネ基準を満たしているかを検証する必要があります。施工とその後の運用の段階それぞれで空調設計者が主体的に関与し、性能値・快適性・コストの3要素をバランス良く満たし続けることが重要です。
日本キヤリアの製品をご紹介
日本キヤリアはZEB向け最新の空調設備を幅広く取りそろえ、空調設計から施工・運用までをトータルで支援します。
空冷ヒートポンプ式熱源機「USXシリーズ」は、R32冷媒対応のインバーター・DCロータリーコンプレッサーを搭載し、高効率かつ大容量の運転を実現。新設はもちろん、既設機からの更新にも適しており、ZEB化に向けた柔軟な設計対応を支援します。 また、空調負荷の軽減に大きく貢献するのが、全熱交換ユニット「ヒートクルエアー®」です。 別売りのCO₂センサーと連動させることで、室内の空気質に応じた換気量の自動制御が可能となり、無駄な換気を抑えられ、BEI値の低減にも寄与します。
日本キヤリアでは、ZEBの実現に貢献する空調製品を取りそろえ、設計から運用までの取り組みを支援しています。
ぜひ導入をご検討ください。