そもそも「熱中症対策義務化」とは何か
近年、職場での熱中症による死傷者数は増加傾向にあります。厚生労働省の調査では、2023年に熱中症で休業4日以上となった労働災害は全国で1,106件(死亡者数31人)にのぼり、製造業・物流業・建設業など屋内作業場での発生も目立ちます。こうした状況を受け、2025年6月1日に労働安全衛生規則が改正され、一定条件下での作業において、事業者への熱中症対策が法的に義務化されました。これまでは「できる範囲で取り組む」努力義務でしたが、改正後は「必ず実施しなければならない」法的義務となり、違反には刑事罰(6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が適用されます。
義務化の対象となる条件とは
義務化はすべての事業所に一律に適用されるわけではなく、以下の「環境条件」と「作業時間条件」の両方に該当する場合が対象となります。
① 対象となる作業環境
- 暑さ指数(WBGT値)が28以上の環境
- または、気温が31℃以上の環境
② 対象となる作業時間
- 1日の作業時間が4時間を超える場合
- または、連続して1時間以上の作業が見込まれる場合
工場・倉庫の多くは、夏季においてこれらの条件に該当する可能性が高い環境です。「例年と変わらない」という感覚的な判断ではなく、WBGTを実測・記録し、客観的な根拠を持った対応が求められます。
自社の環境は対象?
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確認項目
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該当する場合
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作業場所の夏季温度が
31℃
を超えることがある
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義務化対象の可能性あり
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WBGT
計で
28
以上が計測されることがある
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義務化対象の可能性あり
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1
日
4
時間以上または連続
1
時間以上の作業がある
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上記の環境条件に該当する場合、
義務化対象となる
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製造ライン・倉庫作業など身体的負荷のある作業がある
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対象リスクがさらに高い
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<補足:WBGTとは?>
WBGT(Wet Bulb Globe Temperature:湿球黒球温度)は、気温・湿度・輻射熱(周囲からの熱放射)の3要素を組み合わせた「暑さ指数」です。単なる気温とは異なり、人体が実際に感じる暑さ(熱ストレス)をより正確に表す指標として、ISO規格や厚生労働省のガイドラインで採用されています。
▼詳しい解説はこちら▼
WBGT基準値とは?現場で使える熱中症リスク判定の手順と対策チェックリスト
事業者が整備すべき3つの体制
対象条件に該当する事業者は、以下の3つの体制を整備する必要があります。それぞれについて、現場での対応チェックリストとあわせて確認してください。
① 報告・連携ルールの整備
熱中症の疑いがある労働者を発見した際に、誰がどのように報告し、誰に連絡するかのルールを事前に定め、全員に周知しておく必要があります。「何かあったときに対応する」という曖昧な体制では、法令上の義務を果たしているとはみなされません。
対応しなかった場合のリスク
義務化に対応しなかった場合、以下のリスクが生じます。「これまで問題がなかった」という実績は、義務化後の免責理由にはなりません。法令に基づいた対策を講じていることを、記録として残しておくことが重要です。
- 熱中症による重症・死亡事故が発生した場合:6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
- 労働基準監督署による是正勧告・指導の対象となる
- 事故発生時の民事上の損害賠償責任(安全配慮義務違反)
まとめ:今すぐ取り組むべき優先ステップ
義務化への対応は、まず「自社が対象かどうかの確認」から始まります。以下のステップを参考に、優先度の高いものから順に整備を進めてください。
- 自社の作業環境がWBGT28以上・気温31℃以上に該当するか確認する
- 報告・連携ルール・応急処置手順を文書化し、現場に周知する
- WBGTを定期測定・記録する仕組みを構築する
- スポットクーラー等では数値改善が不十分な場合、空調設備の導入を検討する
- 導入した措置の内容と効果を記録として保存する